漫画の神様・手塚治虫さんの「ブラック・ジャック」がAI(人工知能)を使って蘇りました。40年ぶりの新作ができるまでを密着取材しています。
法外な代金と引き換えにどんな手術も成功させる天才外科医を描いた、故手塚治虫さんの「ブラック・ジャック」。AIを使った新作の漫画が発売されました。
“漫画の神様”に挑んだ制作期間、約5カ月をカメラは追いました。今年7月に行われた第1回の制作会議。手塚治虫さんの長男、眞さんら映画やドラマを手掛けてきた著名人や手塚作品を知り尽くした面々が顔をそろえました。
慶応義塾大学 栗原聡教授:「人工知能を使うことで良質なコンテンツがいっぱいできる。こういったことがしたいということが元々の目的です。どういうふうにしたら人工知能が人間をサポートできるか」
人工知能が専門の栗原教授の研究室が今回のプロジェクトのために開発したのは「ブラック・ジャック」200話分など、手塚治虫さんの過去の作品を学んだAIです。
AIと人がタッグを組んでストーリーと作画を進めます。まずはストーリー作りから。例えば、環境問題をテーマにして登場人物の設定をしたうえで、AIに対して“地球を治す。”と指示を入れると…。
TEZUKA2023 手塚眞総合ディレクター:「なるほど、なるほど。非常にシンプルな」
短いストーリーがいくつか出てきました。AIと繰り返しやり取りして、ストーリーを完成させます。初めて使った感想は…。
TEZUKA2023 手塚眞総合ディレクター:「ただ、今見た限りで使い物にならないというものではない」
次の会議にはAIを使って作ったストーリーをそれぞれが持ち寄りました。
手塚プロダクション 日高海さん:「AIと20時間くらいこのプロットで向き合いました」
脚本家 舘そらみさん:「私はこう思います、その意図はこれですと(AIに)伝えると、意図をくみ取ったうえで新たな案をたくさん提示してくれる」
プロのクリエイターたちがAIと向き合い、作り上げたストーリーの中から最終的に映画監督の林海象さんの案が採用されました。
映画監督 林海象さん:「テーマはアンドロイドですね。機械の心臓をブラック・ジャックは治せるのかと」
過去の作品でも登場した人工心臓の手術にブラック・ジャックが挑戦するというものです。ストーリーができると取り掛かるのはキャラクターの生成です。
今回の物語で核になる「マリア」というキャラクターを決める過程では…。
まず、性別や「サイボーグ」などのキーワードをAIに入力すると、手塚作品らしい顔がいくつも出てきます。顔が決まると体や細かい部分に取り掛かります。
TEZUKA2023 手塚眞総合ディレクター:「ここのところ蓋を開けると不気味アトムになっちゃう。左右対称じゃない方が良い。片足がメカっぽかったら片足は生が残っているとか」
実はマリアは“機械の心臓”を持つキャラクターです。どこまで人間らしさを残すかなど、質感まで丹念に作り込みます。
キャラクターを作ったのはAIですが、最終的に漫画を描き上げ魂を吹き込んだのは“人の手”でした。
TEZUKA2023 手塚眞総合ディレクター:「AIが作った絵は使っていません。そのままでは使っていません。AIが生成した絵を商業的に使って良いものか色々な議論がありますし、法的整備もされていないので私たちはあえて避けました。AIに手伝ってはもらいましたが、最終的には人間の書いた絵を全部使っています」
AIと人間で半年あまりをかけ、制作された新作は先月お披露目されました。
TEZUKA2023 手塚眞総合ディレクター:「これは手塚漫画にふさわしいと感じました」
新作でブラック・ジャックが挑むのは、「マリア」の心臓にできた腫瘍(しゅよう)の手術です。AIでできた完璧なはずの「機械の心臓」がなぜ、病気に侵されたのか、テクノロジーで命を長らえることの是非や人間とは何かを問う内容です。
今回のプロジェクト、制作の半分以上はAIが担ったということですが、その限界も浮き上がってきました。
TEZUKA2023 手塚眞総合ディレクター:「感情って実は抽象的なもので、データ化ができないんですね。感情を表現した漫画の絵は学習できるんです。絵の学習にすぎないから、その裏に込められている感情は分析もできなければ、解析もできない。AIが作ってきたストーリーに加えなければいけない」
感情を効果的に伝えるための“演出”は人間の手でないと難しいといいます。
TEZUKA2023 手塚眞総合ディレクター:「手塚治虫の漫画のすごさは演出のすごさ。ブラック・ジャックの手塚治虫がやっている演出は演出の極み。非常に複雑な話を書いているはずなのに、スーッと読者に入ってくる。腑(ふ)に落ちる書き方をしている。一言だったり1コマだったりキュッと集約して書ける手塚治虫のすごみなんです」
[テレ朝news]