漫画の神様・手塚治虫さんが生んだ不朽の名作、「ブラック・ジャック」。
その主人公を劇的に進化する「生成AI」が描くと…その手には、スマートフォンが。
番組は秋の発表に向けて始まった「ブラック・ジャック」の“新作”を作るプロジェクトの裏側を取材しました
■“生成AI×漫画の神様”ストーリー作りを体験
(渡辺瑠海アナウンサー)「こちらでいまもブラック・ジャックの新作を作っているということです。さっそくお邪魔してみましょう」
(栗原教授)「栗原と申します。こちらこそよろしくお願いします」
プロジェクトの総合プロデューサーをつとめている、人工知能・AIが専門の栗原聡教授。「ブラック・ジャック」の200話を超える全エピソードと膨大な絵をAIに学習させました。
(渡辺瑠海アナウンサー)「これはブラック・ジャック先生がスマートフォンをいじってますけど?」
(AI研究者 栗原聡慶応大教授)「そうですね。昔はスマホもVRゴーグルもなかったので、そういったものも出せますよと」
(渡辺瑠海アナウンサー)「『調べものをするブラック・ジャック』とか打ったらこういう絵が出る?」
(栗原教授)「出ます。絵を描いたりとかって専門の能力がない一般の僕らであっても、こういった人工知能を使うと何かしら僕らでも作れるんじゃないかと」
ブラック・ジャックが生まれて今年で50年。プロジェクトの総監督をつとめるのは、手塚治虫の長男・眞さんです。
(手塚治虫氏の長男 手塚眞総監督)「手塚治虫が今まで描かなかった表情あるいはアングル、そういったものがもし描けるとしたらですね、それを手塚治虫らしく描くということはAIにしかできないかなと思います」
医学博士で、医者免許も持っていた漫画の神様、手塚治虫。1973年に連載を開始したブラック・ジャックは、その代表作のひとつです。医師免許を持たない、いわゆる「もぐり」の天才外科医ブラック・ジャックは、重症患者を奇跡的に助けますが莫大な代金を請求します。尊厳死や医療の限界をテーマにした話もあり命とは何か、生きることとは何かを深く考えさせられる作品です。
大まかなストーリー作りにはテキスト生成AIが、キャラクターの顔などには画像生成AIが使われますが、実際の漫画のコマ割りやセリフなどは人間のクリエーターが制作する予定です。
今回、番組は特別に、AIを使ったストーリー作りを体験させてもらいました。
(渡辺瑠海アナウンサー)「ではAIでプロットを作成してみます。まずこのアイデアのところに…」
(栗原教授)「自由に打っていただいて」
(渡辺瑠海アナウンサー)「なんでも大丈夫なんですか?」
(栗原教授)「そうですね」
(渡辺瑠海アナウンサー)「私お天気をやっているので『異常気象』を入れてみます。あとは、AIがおもしろかったので、『生成AI』」
まず、物語の骨格となるテーマとアイデアを考えます。今回は、アイデアに「異常気象」と「生成AI」、テーマには「環境問題」と「葛藤」を入力しました。
(渡辺瑠海アナウンサー)「いまブラック・ジャックとかピノコとか登場人物が並んでいますが、ここに私が登場することは可能ですか?」
(栗原教授)「もちろんできます。名前以外にも例えば、プロファイル、アナウンサーで性格がどうでとか、そういう細かい設定を入れることができて、そうするとその設定にあった役割として出てくることができます」
入力を終え、待つこと3分。
(渡辺瑠海アナウンサー)「出ました。生成されました。」
シーンを5つに分けた1話分のストーリーが作成されました。
(渡辺瑠海アナウンサー)「山下(登場人物)は、娘が異常気象のせいで病気になったとしてブラック・ジャックに助けを求める。ブラック・ジャックは珍しい症状に興味を持ち彼の娘を見に行くことを決める」
そのころ、環境問題を解決できるAIが登場したという報道がでる。アナウンサーの渡辺瑠海は、このAIは危険だと察知し、情報を集めていた。治療法が見つけられなかったブラック・ジャックとピノコは渡辺アナと共にAIの開発者を探し出す。そのAIは過剰に気候を操作でき、危険な異常気象を引き起こしていることが分かった。開発者は、「問題は異常気象ではなく、人間による環境破壊なのだ」と警告する。ブラック・ジャックと渡辺アナは科学者を説得し、AIを破壊する…という物語。
(渡辺瑠海アナウンサー)「胸熱!すごいうれしいな私、ブラック・ジャック先生と並べるなんて」
(栗原教授)「まあこんな形で、すぐ出てくるという形です。しかも物語のブラック・ジャック的な要素とか、あとは展開ですよね。グダグダと行くわけではなく、ちゃんと山あり谷ありってなっていますよね」
「手塚治虫が現在も生きていたら」をコンセプトにした試みは2019年に始動。しかし、当時AIが作ったシナリオは…
(手塚治虫氏の長男 手塚眞総監督)「主人公の設定を見ると少年で男、少し明るい性格、少し強い。そこまでは良いんですけど、鳥なんですよ。しかも悪魔を使う」
男性「だいぶ謎ですね」「それであと裸なんですね」
さらに、AIが作成するキャラクターの画像も…
男性「なんか骸骨みたいな感じになってしまって。というのが多いんですけれども」
(手塚眞総監督)「やっぱりいずれにしても、もう少し顔になっていてほしいですね」
(栗原教授)「せめて顔は保証されていないと困るっていう」
AIはキャラクターの目や鼻や口をただの“模様”としか認識できませんでした。突破口になったのは、数十万枚という人間の顔の画像。目や鼻や口といった人間の顔の構造を学習させることで、手塚治虫らしい画像が次々と生まれたのです。
こうして生み出されたのが新作漫画「ぱいどん」。2020年に実際に漫画誌に掲載されました。
あれから3年。AIの技術は飛躍的に進化しています。
(栗原教授)「ちょうど左側が3年前で右が今なんですけど、左と右を見てみると右のほうがですねキャラクターの個性が強いですよね。やっぱり左側だとなんとなく全部ちょっと似てるようなテイストなんですけども、『もっと鼻をどうしたい』とか『もっと過激な感情表現したい』とかですね、そういうことができるようになってきたっていうのは今です」
(渡辺瑠海アナウンサー)「クリエーティブな仕事がAIに奪われることは?」
(栗原教授)「AIが出してきたものに対して結局それを僕らが『ここの展開面白いな』とか僕らが面白いと思って。それを僕らが深堀りしてみようと思ったわけですね。ということは明らかに結局は僕らが想像して判断している側なんですね。AIっていうのはそれに対する素材を与えてくれてる立場だと」
7月2日『サンデーステーション』より
[テレ朝news]